其処は花畑だった。

真紅の花弁を一杯に開き、僅かな間与えられた命で懸命に咲き誇る花達は、色の無い世界の中で唯一輝いていた。

少年は其処をぼんやりと眺めていた。

雲一つ無い筈なのに灰色の空と、凍えるように刺す風。少年を飲み込もうとする、膨れ上がった闇。

少年は光に焦がれていた。

周りの全てから逃げ出す様に花へと駆け寄る。否、駆け寄ろうとする。

けれど闇は重く、残酷だった。

どんなに進んでも花畑は遠く、寧ろ遠ざかっているのではないかという錯覚さえ覚える。

次第に足は鉛の様にずしりと重くなってきた。

空と同じく灰色の大地は液状で、抜け出そうと足掻けば足掻く程、重い足をずぶずぶと飲み込んでいった。

足許から闇が這い上がってくる。既に腿の辺りまで達していた。




――もう駄目か?もう駄目なんだ。

暗い考え――絶望に頭を支配され、頭の動きが止まる。

――抜け出せないのなら、抵抗する意味なんて無いじゃないか。

足が止まる。闇は腰まで飲み込む。

脂汗の滲む瞼を閉じ、閉じ、全てから――あんなにも憧れた真紅の花からさえも目を背ける。

その儘、闇に身を委ねようとした、…その時。

微かな、消えそうな位微かな声が、聞こえた。

…誰かの、啜り泣き。

驚き、きつく閉じていた瞼を抉じ開け、声の主を探す。

それは少女だった。



一人の少女が花畑の中央に座り込み、泣いていた。

白い両手で覆われた顔は見えなかったが、波打つ滑らかな黒髪は、しゃくり上げる少女の身体の動きに合わせて微かに揺れている。

真っ白な、汚れ一つ無いワンピースのみを身に纏い、裸足で座り込んだ儘、静かに、ただひたすら泣いていた。

少女もまたモノクロだった。けれど、あんなに忌まわしく思えた周りの闇とは違う。

――どうして泣いているの?…何が悲しいの?

あの少女の傍へ行きたかった。唯其れだけ。

少年は一歩を踏み出そうとした――踏み出せた。いとも容易く。

液状だった地面はもう硬かった。

其れ所か、大地を踏み締めたその場所から光が溢れ――世界は色を取り戻した。

灰色だった空は青く澄み渡り、冷たかった風は優しく柔らかく、頬を撫でていく。

そのまま走り出す。少女の許へ。

草を踏む柔らかな音に気付いて、少女は顔を上げた。

豊かな黒髪。純白のワンピース。眩しい程白い肌の中で際立つ、薔薇色の頬。

そして、右は蒼、左は紅のオッドアイ。

まるでひとつの芸術品の様な少女は、2色の瞳を細めて、

本当に嬉しそうに、微笑んだ。






>>ソシテ彼ハ夢カラ覚メル>>










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