第一章 龍の死



「はぁぁ、外に出たいよぉ。詰まんない。 ねぇ、ウィルは外に出たいと思わない?」

赤髪の14歳の少女がため息を付きながら座り込む。

その隣には、ウィルと呼ばれた薄い金色の髪の17歳の少年が座っている。


ここは町から少し離れた小さな山。祠が近くにあり、そこから出ると草原が広がる。

そこは、ウィルと龍の親子の唯一の居場所であった。


「外? 別にココでいいよ。」

反対側に居る大人の体くらいの子供の龍レグを撫でながら少年ウィルは呟く。

薄い金色の前髪が少し伸びていて、目に刺さるそのたびに瞬きをする。


「ふ〜ん。レグも?」

少女は、レグに顔を向け聞いてみる。すると「きゅぅぅ」と言うレグの声が聞こえた

「ぁぁ、もう分んないよ。ウィル、なんて言ってるの?」

言葉が分らないのを詰まらなそうに、眉を下げる少女。


「ココでいいって」

レグを見るでもなく、少女を見るでもなく、ただ遠くの空を見る顔は無表情だった。

曇りか・・。


「なぁんだ、詰まんない」

どうして、ウィルには龍の言葉が分るんだろう・・・。と草原にそのまま後ろに倒れこむ少女。


「何が、詰まんないんだ?フィア」


少女の目の先には、男の姿があった。少女はフィアと呼ばれていた。


「ゲッ、お兄ちゃん!」

うっわぁ、お手伝いサボったのバレたか・・。

勢いよく、起き上がるフィア。


「『ゲッ』じゃないだろぅフィア。母さん怒ってたぞ」

まったく・・。男は腰に手をあて、フィアの前に立つ。


「うぁぁい、只今もどります・・」

だらしのない声で返事をしてから、立ち上がり家の方向へ姿を消していった。



ふぅ。その姿を見送り、さっきまでフィアが座っていた位置に腰を下ろす。

「はぁぁ」

フィアも女の子なんだからなぁ・・・。


「同じだよ、ギア。フィアと」

隣に座り込む、ギアと呼ばれる少年の方を向き、また曇った空を見る。

ギアはフィアの兄で、髪はフィアと同じ赤色だ。


「ぇ?何が?」

「ため息、ココでついたよフィアも。外に出たいって」

「ぁぁ、フィアまたそんな事言ってんのか。外ってのはこの町の外って事だろ?魔物がいてフィアにはとてもじゃないけど危ないよ」


ココ一ヶ月、魔物が出現するようになり、町の外には女子供は出れなくなった事が、外に出た事があまりないフィアには詰まらないのだ。


「なんで、魔物なんて出てきたんだろうな。40年前に居なくなったはずなんだけどなぁ」

魔物だなんて・・・。ギアは40年前の事を考え嫌な予感がした。


「俺には、その原因があるんだよな?40年前の事」


約40年前、今のように魔物の暴走が起きた。その理由は、ある一人の男セアルの力によるものだった。

セアルの力はある青年達により、喰い止められ。世界は平和となった。 だが、セアルの魂は世界をさまよい、復讐の時を待っていた。

そして復讐の時、その魂と力を持って、生まれてしまったのがウィルである。


「ああ!!、ウィルを責めてる訳じゃないんだよ。う〜ん、なんて言うの?まぁ・・」

焦ったように言うギア。 

現にウィルは生まれ変わりと言ってもいい存在だ。今、魔物が現われているのも・・。

そんな考えが頭をよぎる。


「いいよ、別に。なんも感じないんだし。本当のことなんだからさ。」

オレハ、ココロガナイ・・・。そっと、レグをまた撫でる。レグはそれに「きゅぅぅ」と応える。

俺は俺か・・・。


生まれたばかりのウィルは、力も何もなかったのだが、7歳の頃に封印は完全に解けてしまった。暴れまわるウィルは、セアルの力と共に記憶と心を封印されてしまった。

記憶と心を封印されたウィルは、今隣にいるギアの家族に龍のディルと一緒に引き取られたが

町に居る事のできない龍のディルと一緒に祠に住み着いていたのだ。


「ウィル、ごめん・・・。」

心がないか・・・。それでも・・・。

魔物が出てきたせいで、俺は・・・。深く何かを考えるように、空を見上げる。


ギアの見上げた空は、今にも泣きそうな曇り空だった。


魔物の出現と言い最近のこの世界は、曇り空のようだ。曇り空はのちに、雨や嵐をもたらすように

この世界も何かが起きそうで気分が悪くなる。 




曇り空は晴れることなく、夜がくる。

これから、一雨降りそうな夜。


「町の方が、騒がしいな」

寝床の祠で横たわる、龍のディルは半分起き上がった状況で近くで眠るウィルに囁く。

それは、隣で寝ている龍の子供のレグに聞こえないようにだ。


「本当だ、人間と魔物?」

変だな?体を起き上がらせる。


いつもは、静かなはずの小さな町だが、今日は人や魔物の声が聞こえる。

更に耳を済ませる。


「人間の叫び声が聞こえる。魔物たちが暴れているようだ。ウィルお前はココで待っていな

決して、レグやお前は来るんじゃない。分ったか?」

急がないと、人間共が全滅だ。ディルは祠を出ると、すぐに飛び立ってしまった。


「ディル・・・。」

何故、連れて行ってくれないのだと、祠を出る所までを追ったが飛び立ってしまったのだから

人間のウィルには追う事は不可能だ。


草原は町を見渡せる崖へと続いていた。そこまで歩き町を見下ろす。

 火の海・・・。

町は真っ赤に燃え上がっていた。ウィルはそれをジッといつまでも見つめていた。




いつの間にか、眠りについてしまったウィル。

静かに夜は明けたと言うのに、曇り空は晴れてはいなかった。


「きゅぅぅ・・きゅぅ」

ディルの子供レグの声。レグは崖の近くで寝ているウィルの頬を頭でグッと押す。


「ん・・どうした?レグ」

体はゆっくり起き上がらせると、レグの頭を撫でる。

昨日の夜のことを忘れてしまっていたウィル。


「きゅぅぅ」

悲しいレグの声。

「ディルが?」

そうか、あれは夢じゃなかったのか。もう一度崖を見下ろすと、煙を出す灰と化した町。

ディル・・・。


祠に入るとぐったりと横たわった、血だらけのディルの姿があった。

「ディル・・」

シヌノカ・・?ディルの前に立ち見つめるしかできないウィル。否、何をしていいのかウィルには分らなかった。


レグはディルのそばにより、一生懸命自分の体を押しつけた。

レグは人間にしたら大きいが、龍にとってはまだ幼い子供、大人で千年も生きるディルの大きさには適わない。 

そんな小さな体を押し付ける姿はとてもあわれだった。


「ウィ・・ル、来た・・のか・・。」

レグの行動により、目を薄く開き横たわった状況で弱弱しく口をきく。

ポタポタとディルの体から流れる血の音が祠に響く。
 

「封・・印・・時・・・ない・・・心・・探せ・・・」

途切れ途切れに聞こえる声。

ディルは言い終えると残る力を使い果たしたかのように全身の力を抜く。


何を言っているのか理解できなかったが、心を探すと言う事だけが分った。

ココロ・・・?オレノ・・・? 

足元をぼんやりと見つめ胸に手をあてる。俺に心なんてあるのか?


「ディル・・・」

俺はどうすれば?そう言おうと口を開く。


「きゅぅぅぅ!!」

ディルは瞳をゆっくりと閉じ、深い眠りへと入っていった。

悲しく祠に響き渡るレグの声。冷たくなろうとするディルの体を押して、

無理やり頭で目を開けさせようとするレグ。


ヤメロ・・レグ。モウ、シンデルンダ ディルハ・・・・。

死んでる事が分っても、レグの用に悲しめなかった。

何をしていいのか分らず、ウィルの頭には悲しむレグの声が響いた。


(目を覚ましてよ?母様 もう朝だよ?どうして?何があったの母様)


ウィルはこの時、レグの声は拒むように祠を出た。


ドウシテ・・?


いつの間にか、外は大雨だった。冷たい雨水が髪から頬をつたう。


「ウィル」

祠を出た先で、後ろからギアの声が聞こえてきた。


「ギア?」

無事だったのか・・・。ギアの方を向くと、悲しげな表情のフィアとギアがいた。


「ディル・・は?」

気まずそうに、ギアは聞く。


「祠の中だよ」

祠の中で死んでる・・。あえてそこは言わなかった。


「そっか」

悲しむレグの声・・。死んだんだ・・・。そんなこと、聞かなくても分っていた。

昨夜、町のみんなを救うために血だらけになっていた事も。

それなのに・・・あそこまで、やらなきゃいけない事なのか・・・?

歯を食いしばり拳を強く握った。

これも、みんな・・・。


「可哀想、レグ。母親が死んじゃうなんて」

泣きそうになりながら言うフィア。ウィルもフィアも本当のディルの死んだ理由は知らないのだ。


知らない方が幸せな事だってある・・・。俺だって、知りたくなかった・・・。どうして?


「レグ?」

祠から、ウィルは真っ先にレグを感じ声を出す。

だが、レグは黙ったままウィルの隣を通り過ぎていく。

虚ろな目で遠くを見つめるレグの悲しみは雨で一層深みを増した。


「雨?」

レグの瞳からも、雨が・・・。

雨と混じって涙が流れていた。それは雨と同じくらいの勢いで溢れていく。

レグはそのまま、空に飛び立ち今までにない位の大きさで泣き叫ぶ。


「きゅぅぅぅぅぅ!!きゅぅぅきゅぅ!!」


呼んでる、レグはディルを・・・。

レグを見上げて、その声を聞くたびに変な気分になる。

それは、ウィルにとって、とても不思議なことだった。


「レグは泣いてるんだ。あれはレグの涙。こういうのを悲しいって言うんだ」

ウィルには、分らない。そんなの分ってるよ。



「レグが泣いてる?悲しい・・・?」

胸に手を当てて、心を探してみる。だがウィルには心がなかった。悲しいとも嬉しいとも思えなかった。


レグの悲しみに満ちた泣き声は空に響きわたった。


町の人々にも聞こえていただろう。あんなに、大きな声で泣いているのだから・・・。



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